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ロンロンのお葬式

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ロンロンは、青灰色の雑種のシャム猫です。享年17歳でした。

17年前の春、ロンロンは、朝市の片隅に置いてあったダンボールの中で
「ミニャ~、ミニャ~」とないていました。
 
あんまりかわいいので子猫を貰って帰ることにしました。
朝市から家までの車中で「ロンロン」と名づけました。
家に帰り居間に放つとロンロンは片耳を折り曲げて走り回りました。
ロンロンは、不安になると片耳を折り曲げる癖があるようです。
 
一年後、ロンロンは恋をしてお母さんになりました。
生まれてきた赤ちゃんは、男の子が7匹で女の子が1匹、合計八匹でした。
赤ちゃんはみんな茶色のシャム猫らしいシャム猫の赤ちゃんでした。
ロンロンはそれはそれは愛情一杯に赤ちゃんの世話をしました。
人間の母親が失ってしまった母性のままに見事な子育てぶりをみせてくれました。
 
そんなロンロンお母さんがある日、子猫たちを置き去りにして家出をしました。

もちろん黙って出ていったのではありません。
ちゃんとロンロン母さんの事情があってのことだったのでしょう。
私の目を見つめ、長い長いお別れの挨拶をして、
何度も何度も振り返り振り返り出ていきました。

猫語が分からない私にはそれがロンロンの家出の挨拶だと知らずに
お喋りの相手をして、お散歩を見送るときと同じ気持ちで後ろ姿を見送りました。
お日様の光を受けて青灰色の毛が銀色に輝いて見えたのだけは妙に憶えています。
私の心の奥の奥の奥の方では、ロンロンの決心を感じていたのかもしれませんね。

お母さんを失った7匹男の子たちは、
やがてそれぞれに人間の新しいお母さんに引き取られ、
「アグリ」と名づけた女の子だけが我が家に残りました。

アグリが2歳になった頃だったでしょうか、突然ロンロンが帰って来ました。

出ていった日と同じように草むしりをしていた私を見つけて
訴えるような眼差しで長いお喋りを始めました。

お喋りの内容は子猫を置いて出ていった言い訳だったのか
旅の物語だったのか、留守中のお礼だったのか分かりません。
ただ分かっているのは一生懸命に訴えたことでした。
抱き上げてもお喋りを止めようとはしませんでした。
 
ロンロンは、出ていった時よりずうっと軽くなっていました。
でも毛並みは出て行った時と同じぐらいに美しく輝いていました。

私は、そのままロンロンを抱いてアグリのいる居間へ連れ帰りました。
離れ離れになっていた親子の2年ぶりの対面です。
私はアグリの喜ぶ姿を思い浮かべていたのですが、
ロンロン母さんを恨んでいるかのように知らん顔でした。
驚いたことにロンロン母さんも愛娘アグリに全く関心を示しませんでした。
 
もしかしたら、ロンロンお母さんの家出の目的は、
北キツネのお母さんのように「子離れ・親離れ」だったのかもしれません。
北キツネのお母さんは我が子を追い出しますが…。

無理矢理ロンロン母さんとアグリを近づけようものなら
全身の毛を逆立てて怒り出す始末、
実の親子だった痕跡の欠片も感じられません。

しばらくしてロンロンはお医者さんでお母さんになれない手術を受けました。
そうして愛娘アグリと仲良くなれないまま、時には私の母のように、
またある時には私の子どもにように寄り添って17年の人生を終えました。

ロンロン母さんの亡骸を段ボールの棺に入れて
秋には菊の香りで一杯になる畑の片隅に土葬しました。
小さな四角い石を墓石にしました。
墓石の前には香炉と花瓶を置きました。
 
香を焚き、花を手向けて手を合わせました。 

ロンロンお母さん、沢山の思い出有り難う。
 
彼の世で私の両親と出会えたら、その青い目で見つめ一杯お喋りしてあげてね。



 

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